
前回からの続きです。勝手に名付けたゴルフクラブのカンブリア紀に、プロも使えるやさしいクラブとして一世風靡をしたクラブが、世界でそして日本でもありました。それらの共通点は、慣性モーメントがしっかりと大きいミッドサイズキャビティということでした。それらを時系列的に調べると、継承された大きな共通点があったり、その進化の過程で隠れた名器が存在していたり、とても楽しい時間旅行でした。ですが、現在にはその機能を継承したクラブを見つけることは難しい状況です。
急激な環境変化
私がクラブ設計の道に入ったのは1997年。その頃には既にゴルフ業界に大きな変化が次々と起こっていました。
まずドライバーの素材がチタンに変わっていったこと。このことによって、ヘッドサイズは年々大型していき、ステンレスヘッドの最大が220㎤だったところから、2008年に上限が460㎤となるまでドライバーだけが急激に変化していきました。
さらに、ツアー選手を含めボールの構造が糸巻きバラタからツーピース、そしてスピン性能を劇的に変化させたウレタン系カバーボールの登場によって大きく変化しました。
また、少なくとも日本では景気悪化によるゴルファー人口の減少と、新規ゴルファーが生まれにくい環境となり、各社のモデル数は激減していきました。
売れるクラブを作り続ける必要性
ゴルファー減少の中、モデル数を絞りつつ、売り上げを確保していくということは、既存のゴルファーを大切に考え、課題に対応していくこととなります。
その結果、プロを含めた競技ゴルファー系の方々に特化したいわゆる上級者モデルがゆっくりとした進化していく流れと、一般ゴルファーのうち、ボリュームゾーンと呼ばれる方々のゴルフ熟練度と年齢の変化に合わせたモデルが開発されることとなります。
上級者モデルは、マッスルからハーフキャビティ・コンパクトキャビティの割合が変化していくだけにとどまり、強いショット時に低スピン化するボールに適応できなかったロングアイアンは少しずつ減っていきました。
一般モデルは、年齢と共に落ちる飛距離を補うことがなによりも大事で、熟練度はあがっていきましたから、慣性モーメントの大型化よりも、低・深重心化と、#7アイアンの飛距離性能をUPすることが、売れ行きを左右する大事なファクターとなりました。
性能表現の単純化がまねく収束感
さらに、失敗できない雰囲気から、クラブ選びにわかりやすさが求められ、性能をあらわすキーワードが独り歩きしていきます。最近の事例では、超大慣性モーメントドライバーがそうです。数年前のことですが、プロの使用者も激増して世界的にヒットしたドライバーがありました。そのクラブが他のクラブと違うところが、超大慣性モーメントだったことで、それ以降、他社もメディアも大慣性モーメント時代が来るぞとなりましたが、その売れたクラブの神髄は、大慣性モーメント化のデメリットを感じさせない、とてもバランスのとれた重心性能にあったのですが、「大慣性モーメントが良い」というキーワードが独り歩きしてしまい、各メーカーは大慣性モーメントを競うようになりました。しかし、結局のところ、ヒット作を超える性能のものはほとんどなく、ごく最近は、別の方向へシフトしています。
これと同じようなことが、カンブリア紀以降ミッドキャビティにもおこりました。ミッドキャビティの良いところは、タフなコースセッティングでも戦えるギリギリのサイズで、慣性モーメントが大きいこと。デメリットは、フェースコントロール性がルーズなことでした。開いて閉じる打ち方が主流だった当時は、そのデメリットがもっと影響していたと思います。そのデメリットを解消するために、名器たちは独特のヘッド形状をしていて、その中で大きくフォーカスされたのが、グースネックでした。そこから、グースネック=やさしい というキーワードが生まれてしまい、上級者が拒んだこともあり、グースネックは徐々に一般モデルのみとなり、とても良い性能だったミッドキャビティは少数派となって姿を消すこととなりました。
時代の変化に新しい波
姿を消したミッドキャビティですが、あらたな変化が起きたことにより、絶対に必要な性能となると考えています。その変化とは、大慣性モーメントドライバーを、ゴルフを始めた時から使っていた若いプロゴルファーの出現です。先に話したモデル開発の2極化した流れのうち、プロ上級者向けの性能は緩やかな変化と言いましたが、この変化のポイントは、激変するドライバーへの対応がメインで、弾道・フェース面を意図的にコントロールするアイアン型のスイング技術を変えないまま、大型ドライバーを打てるように設計することでした。そこに、大型ドライバーのメリットを効率よく生かすスイングをする選手が台頭することとなり、また急速に進化した弾道・インパクト測定機の出現も相まって、飛距離の出し方や、弾道コントロール方法も、新しい技術へと変わってきました。そうなると、今までのアイアンベースのスイングではなく、ドライバーベースのスイングと同様のスイングがしやすいアイアンが必然的に必要となってきます。それが、今回cHアイアンの性能としてフォーカスをしたミッドキャビティです。
フェースキープ性を高める新解釈
cHアイアンの開発でたどり着いたのは、ミッドキャビティの名器たちの特性をしっかりと解釈し、グースネックではないもう一つの共通点であるフェース形状でした。これらの独特なフェース形状の本質は、グースネックの効果と思われていた、フェース面をシャフト軸よりも後方に感じて、フェース面の向きをキープしたスイングをイメージしやすいことでした。ただ、そこにはまだまだ考察の余地があり、特に、ロフト角によって変化する構えた時の印象を、重心性能の最適化とあわせて、どのように調整していくかが、不完全だったのかもしれません。
今回私は、その点チャレンジしました。フェース形状の変化を重心性能としっかりと結びつけながら、グースではないネック形状で、FP値と輪郭をリニアに変化させていく手法。フェース形状を決めるさまざまなファクターを連動した数式化することで、フェースだけ見るとロングアイアンとショートアイアンでは別のシリーズに見えるような形状を採用しながら、構えた時の違和感はなく、むしろ共通の印象で、フェース面をキープしながら打てる新感覚なアイアンセットとして、完成させることができたと思います。
得意技の封印と解放
私のキャリアに話を戻すと、30年近くのクラブ設計の中で培ってきたのは、進化し二極化していくクラブの未来を考察し、ゴルファーに寄り添う道具を作ることでした。これまでは、プロの技術を最大限に引き出すウェッジや、ミスを補い楽に飛ばせるアイアンなど、いわば「道具がプレーヤーを助けてくれる性能」を追求し、それを自分の得意技としてきました。
しかし、今回のcHアイアンで挑んだのは、その流れとは全く異なる新しい性能です。「道具に助けてもらう」のではなく、「自分の力を最も気持ちよく発揮できる」クラブ。この新しい設計思想にゼロベースで挑むため、あえて自分のこれまでの得意技を一度封印しました。
そして、この新しいアプローチを証明するために、実は同時進行でもう一つの開発を進めていました。それは、私の得意技をフル活用し、高慣性モーメントや飛距離性能といった「アシスト機能」を高次元でバランスよく詰め込んだ、もう一つの理想形です。伝統的で美しいフェース形状の中に、緻密な優しさを融合させたこの対比的なモデルは、cHアイアンの思想を裏付ける存在でもあります。
このモデルの登場はもう少しだけ後になりますので、また改めてお話しさせてください。
次回からは、まずはこの新しい挑戦の第一弾である、cHアイアンの性能についてさらに深く掘り下げていきます。

