令和のイケメンに込めた想い

大変お待たせいたしました。2026年4月、ついにcHアイアンの出荷を開始しました。
これまでAIに新モデルについて尋ねても、「メーカーのSNSで匂わせ投稿があるため、近々発表されるのでは……」といった回答しか得られない状況が続いていました。ようやく皆様に、その詳細な性能と想いをお伝えできることを嬉しく思います。


プロが即投入した「真のやさしさ」
嬉しいことに、cHアイアンはすでにプロツアーでの実戦投入を果たしています。
レギュラー・シニア両ツアーで活躍する経験豊富な選手にこの性能を高く評価いただき、即座に武器として採用されました。実績のない「名ばかりのツアーモデル」や、根拠の薄い「やさしさ」を謳うクラブが溢れる中、私たちが目指した『プロも使えるやさしいクラブ』を早々に実証できたことは、ゼロからの挑戦だっただけに少しホッとしました。


20年近く変わらない「評価基準」への違和感
なぜcHアイアンのテーマを「令和のイケメン」にしたのか。
その理由は、近年のゴルフクラブに対する評価基準へのアンチテーゼにあります。
現在、クラブの「格好良さ」の多くはバックフェースのデザインで語られがちです。もちろん構えた時のフェース形状も重視されますが、いわゆる「上級者好み」の形状は、この20年近く大きな進化がないように感じていました。そのため、「良い顔していますね」というコメントが、バックフェースのことを指していることも多くなってきました。
私たちは『構えた時の印象』がとても重要だと考えています。だからこそ、公式サイトでは代表番手だけでなく、全番手の顔(アドレス時の画像)を掲載しています。


新時代のゴルファーに、旧来の基準は必要か?
コロナ禍を経て、ゴルフ界には新しいゴルファーが増えました。私の周りでも、友人やその後輩から初めてのクラブ選びに対する相談を受ける機会が増えています。
そこで感じたのは、『旧来のゴルファーが尊んできた「格好良さ」の基準を、今のユーザーに押し付ける必要はあるのか?』という疑問です。それこそ構えた感じの格好良さについては、スイング中のフェースコントロールやインパクト時の打点コントロールの達人たちが好んだフェース形状が、はたして、大型ドライバーからスタートし、SNS等で最新のゴルフスイングを参考に練習する人々にとって、本当にベストなフェース形状なのだろうか?という疑問を強く持つようになりました。


「令和のイケメン」という解
新しいスイングを取り組むゴルファーへの性能としてフェース形状に着目をしたところからは、急加速でイメージが広がっていきました。今の時代にふさわしい、新しい格好良さとは何か。そこで浮かんだキーワードが『令和のイケメン』でした。
この言葉を深掘りすると、私の設計思想の根幹と驚くほど合致したのです。
AIが定義する「令和のイケメン」の要素を整理すると、

清潔感と安心感: 威圧感を与えず、すっきりと洗練されたイメージ。

本質へのこだわり: 流行に流されず、良質な素材や自分に合ったものを選ぶ。

スマートな多様性: 他人との比較ではなく、自身の目標に対して背伸びせず向き合う。

この「すっきりとしていて、押し付けがましくないが、芯がある」という佇まいこそ、新しいアイアンに込めたかった理想そのものでした。


ゴルフクラブのカンブリア紀に思いを馳せて
コンセプトが決まり、次に着手したのは具体的なフェース形状の考察です。それと同時に現代のトレンドでもある大慣性モーメントドライバーを打ちこなすスイングをアイアンでも出来るように、慣性モーメントを大きくするのが必須ですが、ハードなコースセッティングでも使えるギリギリのサイズ感を維持することも大切ですので、過去、そのような性能に近かったモデルをあらためて確認・研究していきました。特に学ぶべきことが多かったのは、各メーカーが多種多様なモデルを競い合っていた80年代後半から90年代にかけてのモデルです。まさにゴルフクラブのカンブリア紀といえるでしょう。カーボンフェースやカーボン複合中空アイアンも含め、いまでは使えない貴重な金属を用いたモデルなど、デジタル設計以前の「プレーヤーの感覚」を重視した個性豊かな形状には、現代では失われてしまった視点や、驚くべき知恵が詰まっていました。今の設計スキルをもって、この頃にモデル開発をすることができたら、どんなに楽しかったのだろうと感じました。


絶滅危惧種をメインストリームへ
あれだけ栄えた個性豊かなゴルフクラブが、なぜ無くなってしまったのか。それには複数の要因があると思われます。景気の後退・ボールの大きな変化・新規ゴルファーの減少・ドライバーだけに起こる進化などなど。そのなかでcHアイアンの役割として、実際にどのような性能のモデルを参考にし、どのように「令和モデル」へと昇華させたのか。
その具体的な背景やプロセスは、次回の更新でお伝えします。

本当に欲しかったクラブを作れることに感謝

2026年2月にジューシー株式会社は創業8周年を迎えました。本当に多くの方々に支えられてこの「ジューシープロジェクト」を進められていることをとても感謝しております。


ゴルフクラブは商品じゃない!
そんななか今年初めとてもありがたいことに、月刊ゴルフダイジェスト様にクラブ設計家としての私を特集した記事を載せていただきました。その取材中に、「設計者としての理念は?」という問いかけをいただきました。そこでは、使い手が使いやすい道具を作ることを基本とし、「売るための商品」ではなく、「使うための道具」ということを常に意識しながら設計をしていると答えました。
その後、あらためて自分の理念、そしてジューシーとしてのこだわりはなにか?について考えてみました。


上質な快適性の追求
ターゲットに合わせた細かな配慮をできるかぎり織り込んだ、使い心地の良いクラブを目指していることは確かなのですが、そのターゲット像が、わかりやすさを求められるうちに、いつのまにか商品的な要素の強いカテゴライズに同調してしまっていたこと。これが嫌で、あらためてジューシープロジェクトを始めたのだと再認識しました。
快適さを求めることに、ゴルフの腕前は関係なく、究極は、はじめてのゴルフクラブとしてジューシーを選んでほしいという思いがあります。合わない・難しいクラブで苦労しながら練習するのではなく、はじめから快適にゴルフをしていただきたい。そんなことを考えていますし、プロゴルファーにとっての快適性なら、やはり信頼して使える、精度と性能の両立もとても大事です。どんなレベルのゴルファーでもそれぞれに個性があり、上質な快適性を求めているゴルファーはたくさんいらっしゃる。そんな方々に新しい性能のゴルフクラブを設計したいというのが私のジューシーとしてのこだわりだと思います。


コンフォータブルゴルファー
そのようなジューシーが目指すゴルファー像をひとことで表す新しい言葉を考えました。
「コンフォータブルゴルファー」
そこで、早速AIにコンフォータブルゴルファーとは?と聞いてみました。その結果は、
・快適性、心地よさ、そして自分らしさを大切にしながらゴルフを楽しむスタイルや、そのスタイルを体現するゴルファーを指します。
・自分にあったギア選び:無理のない重量やシャフトを選び自分のスイングテンポやパワーに最適なクラブを選択する。
・精神的・身体的な快適さ:無理な力任せのプレーではなく、リラックスして自然な動き(心地よいスイング)でプレーする。
・楽しむ姿勢:スコアを追い求めるだけでなく、美しい景色や自然のなかで過ごす時間そのものを楽しむ。
・ゴルフにおける快適さ(Comfort)は、技術の向上だけでなく、健康面やファッション、精神的な充足感を重視する。
まとめ
コンフォータブルゴルファーとは、快適な装備と前向きな心理状態で、ゴルフというスポーツを心から満喫するゴルファー

といった回答でした。AIってすごいですね。自分が伝えたいと思っていたゴルファー像にかなり近い見解となりました。


30年の思いを込めて
冒頭でも触れましたが、ジューシーとして9年目を迎えると同時に、私がゴルフクラブ設計に携わってから、30年目に突入します。振り返ってみると、この30年でアイアンセットなら60機種以上、単品ウェッジシリーズなら50機種以上のクラブを設計してきました。ジューシーとなってから既にアイアンだけでも10機種以上は設計をしています。
そのなかで、今回初めていままで一度も作ることのできなかった性能のアイアンを設計しました。それは、私がメーカーの立場を知る前に純粋に欲しかった性能で、あえて一言であらわすなら、「ヘッドスピードはそこそこ速いけどミスも多い」というゴルファーに必要な性能です。30年前はそのようなクラブも多少ありましたが、私の携わってきたブランドでは、その性能は「市場性が無い商品」との判断となり、夢を見たまま一度もチャレンジする機会がありませんでした。
しかし、この令和の時代になって、新しいゴルファーも増え、大慣性モーメントのドライバーをトッププロも使う時代には、絶対に受け入れられる性能だと思っています。
すべての要素をゼロベースで検討し、過去の良いクラブをあらためて確認・考察し、「令和のイケメン」として、自分の中ではいままでとはかなり違うフェース形状のアイアンを生み出すことができました。コースでしっかりとしたプレーが可能な適度なサイズ感をたもったまま、そのサイズとしては最大級の慣性モーメントで、それを、FULL CNCで軟鉄素材を精度よく削り出していくジューシースタイルで。実は頭の中では3年前に完成をしていたのですが、より精度よく、より物理的考察を深め、ようやく愛すべき性能に仕上がりました。
市場性がないかもしれない、ただ自分が欲しいと思った性能のクラブを設計できること。
本当に幸せです。 改めまして、ジューシーのクラブをご愛用いただいている方々、ジューシープロジェクトを支えていただいている方々、私を育ててくださった方々に感謝の気持ちを伝えさせてください。 新アイアン発表までもう少しだけお待ちください!

「使えるやさしいクラブ」のその先へ -後編-

2026年を迎え、あらためて、ジューシーの製品に込めている私の思いと、これからさきの目標を、前回につづきただただ書いていきたいと思います。


ジューシーのクラブは難しいのか?
ジューシーのクラブは難しいのでは?と聞かれることがよくあります。答えはノーと言いたいのですが、そのように思われるのはしかたないとも思っています。最初のモデルからプロのパーソナルモデル的性能のウェッジを発売していますし、数多くのプロゴルファーが使用し優勝も複数回しています。やっぱりプロモデルじゃんという印象になりますが、私がどのような想い・こだわりで設計をしているかといいますと、すこし異なりますので、自動車の性能に例えて話していきたいと思います。


大切なのは、基本性能の高さ

自動車もゴルフクラブも大きなカテゴリーにわけて扱われることが多く、私の印象では、スポーツカーはプロモデル、ファミリーカーはアマチュアモデルのような感じです。さらには、ツアープロとの活動は、本格的なレースへの参戦、ワークスチームのような印象です。一般道では走れないような車でレースをしている感じです。そうなると、スポーツカーはかっこいいけど乗りこなせない。そもそもスピードは出さないなど、プロモデルは積極的には選ばないと思ってしまうこともあると思います。
でも、ジューシーのモデルは少し違います。例えるなら市販車ベースのレースやWRCに参戦するラリーカーのイメージです。大切なのは、ベースとなる車は街乗りで心地よく乗れる性能がしっかりと作りこまれていて、チューニングや乗り手の技術によって、とんでもなく速く走ることもできる基本性能の高い車となっていることです。R32のGT-Rや、初代インプレッサ、スイフトスポーツや現在ならヤリスのような車です。
ジューシーのクラブは、自身にあったシャフトや組み立て方をすれば、一般的なゴルファーにとっても心地よい性能になっていること、このことを深く意識しながら設計をしていますので、プロモデル=難しいではなく、自分モデル=使いやすい という感じで選んでいただきたいです。
ただ、この性能を作り上げるには、自分が設計のプロであることが大切ですが、やはりチューニングや使い手もプロフェッショナルな領域で感じ取れる基本性能ということが大切ですので、ワークスチームのような活動をこれからもしっかりと続け、常に最先端でプレーするプロゴルファーと共に自身を磨き上げて、すこしでも多くのゴルファーの皆様に喜んでいただけるクラブを作り続けたいと思います。


車は目的別だけでよいのか?
自動車は速く走れることに限らず、悪路の走破性や人や荷物が多く載せられること、燃費最優先など、それぞれの目的でカテゴライズされていますが、その中で「基本性能の高いラリーカーを目指す」というような考えが、ジューシーのこだわりの本質ですが、一方で、車は速く走るためのものだけでよいのか?ということも常に考えています。
25年くらい前、1600ccで180馬力という当時の排気量に対する馬力比で記録となるような4WD・MTのコンパクトなスポーツカーに乗っていたのですが、普段使いの煩わしさから、当時ではたいへん珍しい、3ドアのコンパクトSUVに乗り換えました。その車はスノーボーダーをイメージにした若者向けの車だったのですが、シニア層によく売れたと聞きました。
その車が選ばれた理由は、当時はSUVという言葉も定着しておらず、クロカンなど、悪路走破性重視な車というカテゴリーでしたが、乗り降りのしやすさや、アイポイントの高さ、ちょっとした段差を気にせず進める運転のしやすさが、シニア層により評価されたようです。現在は、コンパクトSUVにのるシニア層が本当に増えていると思います。


現場から生まれる、新しいニーズを生み出すクラブ
ゴルフクラブにおいても似たようなことが時々ありますが、近年の例を挙げると、あるメーカーがユーティリティとFwの中間となるクラブとして世に出したモデルがありました。実際に重心性能を確認してみると、私の目からは、弾道はFw的ですが、スウィングへの影響は、Fwよりはむしろアイアンに近い動きとなることが予想され、アイアン型UTの方が好きで、もう少しスピンが多くなることを求めているユーザーに最適だなと感じていました。結果は、やはりそのような使われ方をすることが増え、モデルチェンジを重ねるごとに、よりアイアンに近いスペックへと変化していったことがとても面白く感じました。
当初の目的とは違うところが評価され、そのような積み重ねが、現在のコンパクトSUV車となっていくように、ゴルフクラブも、カテゴリーで評価せず、実際の性能がゴルファーの求める新しい性能であれば、新しいスタンダードになっていく。また、カテゴリーに特化せず、使いやすさのバランスが取れている、「ただ楽しくゴルフをプレーできる性能」そんなクラブもしっかりと作っていきたいですし、ウェッジやUTも、まだまだたくさんの進化変化が可能だと考えていますので、より現場主義で、実際のゴルファーの皆さまにどんなクラブが必要かを、もっともっと追求していきたいと思います。
そんなニーズをしっかりとキャッチしていく新たな試みもいろいろと考えていますので、楽しみにしていてください。

「使えるやさしいクラブ」のその先へ

今回は、2026年を迎える今、ゴルフクラブ設計にどんな思いをのせていきたいかについて、ただただ書いていきたいと思います。


現在のクラブ選びに欠かせないキーワード
最近のクラブ性能について取材を受ける際にキーワードになっている言葉が、見出しにも書いた「使えるやさしいクラブ」です。いままでプロや上級者はコントロール性を重視した「使える難しいクラブ」を好んで使うことが多く、その逆にアマチュアは、間違った動きや足りないスピードを強くアシストする、上級者にとっては「使えないやさしいクラブ」を使っているケースが多くありました。しかし、結果が数値でわかる測定器が一般化して以降、少しずつ変化していき、特に大慣性モーメントドライバーの打ちやすさがしっかりと進化した結果、その「やさしさ」はプロにもメリットとなり「使えるやさしいクラブ」となりました。それ以降、FwやUT・アイアンなどのクラブに対しても「使えるやさしいクラブ」を求めるような流れが強くなっているように感じます。


綱渡りから、頑丈な橋へ
私は、この大型ヘッドへのクラブの進化について分かりやすく説明するのに、谷を速く渡る方法にたとえた話をよくしています。谷を向こう岸へ渡る際、パーシモンヘッドのような小さなドライバーは綱渡りのイメージ。この時代は、綱の上をバランスを取って速く進める人は一握りの達人でした。メタルウッド時代は、揺れる吊り橋。落ちる怖さを伴いながらも、それなりに渡れる状態。チタンドライバーは、揺れない橋。大慣性モーメント時代は道幅も広い頑丈な橋です。こうなると、向きさえ間違わなければ、全力で走ることすら可能で、だれもが安心して谷を渡ることができるようになりました。プロゴルファーの技術も、綱渡りの達人ではなくアスリート的に速く走れることが必要となりました。
それでは、アイアンはどうでしょうか?スイング的なトレンドはアスリート的になってきていますが、まだまだ頑丈な橋とまでは言えず、吊り橋や揺れなくても手すりのない細い橋といったイメージではないかと思います。そこで、各メーカーはその性能を補おうといろいろと試行錯誤していますが、販売の現状は#7の飛距離勝負のようになっていることで、吊り橋を丈夫にするよりも、速く渡れないなら、橋を下り坂へ傾斜させてしまえというような、過度な軽量ストロングロフト化も進んでしまっています。


リアルなゴルファーは、なにを思って橋を渡るのか?
わかりやすい正論としては、今まで書いてきたような内容ですが、2026年に向けて私が設計で重視しているのは、実際のゴルファーは、理想的ではない動きを無意識、あるいは意識的に取り入れ実践していることを、もっと深く理解して設計をしていきたいということです。先の例を用いるなら、私が恩師から聞いた面白話にヒントがありました。
「エベレストのような過酷な条件で細い尾根を進むとき、右側は4000mの谷、左側は2000mの谷となっていると、どちらに落ちようが命はないのですが、何となく左側に傾いて進みたくなってしまうもんだ」という話です。谷を渡るたとえなら、そこまで急がなければ安心して渡れる橋なのに、谷の浅い方へ傾いて走ってしまう状態。まさにこれが注視すべきゴルファー心理で、ミスをしたくない一心で、理想とは違う動きを積極的に取り入れることが良くあるということです。こうなると、「使えるやさしいクラブ」でも理想的な弾道にはならず、負のマインドが蓄積してしまいそうです。
また、ドライバーも含めてですが、綱渡りで進むことが自身の慣れ親しんだゴルフだという思いが強く、道幅の広くなった橋の上でも、両手を水平に広げてバランスを取ることを怠らない、律儀なスウィングを心がける方々もまだまだたくさんいらっしゃいます。


ジューシーNEWモデルの方向性
2026年からジューシーは新しい展開をしていきたいと思っています。
本当の「やさしい」を打って感じられるクラブを増やしていきます。
谷を渡るたとえなら、まずは、確実にすこしでも丈夫で、道幅も広く設計すること。そうすることで、今の時代に必要な「使えるやさしいクラブ」とすることができますし、そのうえでさらに、どうしても谷の浅い方へ傾いてしまう人が多いなら、道をこっそり深い方へ傾けて設計をする。もしくは、安心できるよう深い方に柵をつけてあげるなど。そして、安易な下り坂の橋ではなく、スタートだけこっそりと緩やかな下り坂にしてあげるような、安心して進むことができる適度なアシスト感。手を水平に広げて進むなら、それでも気持ちよく走れる、フィードバックが感じやすい性能などなど、ゴルファー心理に寄り添った「やさしさ」で、安心して「ダッシュ」できるようなシリーズをすこしずつ展開していけたらと思います。

ウェッジ選びの常識をリセットしてもよいのでは? -後編-

前回、ソール性能は単純なソール角度という1次元的な指標ではなく、厚みや幅などの2次元的、さらにはトゥ・ヒール方向での変化など3次元的に判断してほしいというような話をしました。
今回は、その先にある4次元的な性能を意識すると、自分に合う、もしくは、なぜ自分に合わなかったのか、などもっと納得できるウェッジ選びができるのではという内容について話していきたいと思います。


私の考えるクラブ設計の4次元とは?
一般的に3次元とは縦×横×高さで表せる空間のことです。私がゴルフクラブを設計するときは、この空間にどのようなサイズと重さでできているかという物理的な制約の中で、どれだけ希望のショットが打てるようになるかということを、形状や重心性能などを考慮して実現していきます。
そこに、もう1次元加わることになるのですが、一般的な解釈としては、4次元目の軸は時間とされています。すごく簡単に言うと「同じ物体でも時間が異なれば位置を特定できなくなる」というような解釈からです。では、クラブ設計においてはと言うと、単純には使う方のゴルフをしてきた時間の長さ(経験・知識)。そこからくるクラブに対する要求が変化・細分化されていくことを、しっかりと意識して見極めていくことだと考えています。
単純なことでいうと、たとえばアップライトになっているクラブを構えたとき、クラブ通りに手を上げて構える人と、自分の心地よい位置に構えて、トゥを浮かす人。この違いだけでも結果は大きく変わってしまいます。そういった違いが個性なのか経験からくるものなのか、設計しているクラブのターゲット像はどちらの傾向なのか?などを考慮して設計をしたりしています。


佐々木朗希選手とコーチの会話
先の例はわりと単純な内容ですが、それよりももう少し深い部分の経験によるゴルファーの道具の使い方の違いを、いつも妄想に近い考察をしているのですが、そんな考察を具体的に表現していると感じたことがありました。
メジャーリーガーの佐々木朗希選手が、一時期調子を落としていて、そこから復活をした際のインタビュー記事でコーチとのやり取りを話していたのですが、その中で、「どの球種が投げやすいか?」「痛みはあるか?」などという現状確認と同時に、「小学5年生のくらいの時にコーチから言われたことで、守り続けていることはあるか?」と聞かれていたことです。まさにこれが私がクラブを設計する際、またはクラブのおススメを聞かれた際などにさりげなく確認をしたりしていることにとても近く、メジャーリーグの最先端でこのようなことを意識して調整を行っていることに非常に感銘を受けました。


ゴルフ歴の長いゴルファーに合うウェッジ
具体的にお話しすると、ウェッジショット一つをとっても、それがベストな使い方ではないことも多いとはいえ、ゴルファーがそれぞれいつかのどこかのタイミングで、「これだ!」的なひらめきとともに自身の成功体験として大切にしている打ち方を無意識にしているのではと考えています。さらには、練習量も多く、クラブを頻繁に変える方は、そのひらめきを上書きしていればよいのですが、積み重ねている場合も多く、気が付いたときには今使っている道具では必ずしも正解ではない動きを、自身のナイスショットのイメージとして、結果的にミスショットを繰り返してしまうことも多くありそうです。
代表的な例としては、「バックスピンを使って止めるウェッジショット」があります。これは、その時使用していたボール、グリーンの柔らかさや傾斜、芝や小石の噛み具合によって偶然生まれたショットを、常に再現したいと思ってしまいがちです。その思いが強くなると、成功する確率が低いショットへの過度の期待から最終的にイップスになってしまうこともあります。
そんな時に思い出していただきたいのが、ご自身が一番練習をしていた時、無意識にひらめいた打ち方、その時にしていたウェッジショットなどです。無理にスピンショットを打つのではなく、もっとシンプルに寄せていたかもしれません。ボールが全然違ったかもしれません。そんなゴルファーのことを思いながら設計をしたのが、ジューシーtHウェッジシリーズです。このモデルはいわゆるスピン系のウェッジが出る前にゴルフを覚え、多く練習をしていた方々を想定しています。ただその頃のウェッジを再現するのではなく、その頃のウェッジを使っていた人がシンプルなウェッジショットを打ちやすいように設計することを心掛け、構えやすさはしっかりと近年のトレンドを押さえつつ安心できる形状。そして、少し開いて使うことで強烈なスピンもかかる楽しさ。その結果、ゴルフ歴が長い方はもちろん、始めて間もない方でもシンプルに使いやすく良いウェッジになったと思っています。


ひらめきの上書きも大切
その逆に、無意識なひらめきが今打ちたいショットに合っていない場合も多いので、その時は、今ご自身がどのようなショットを打ちたいのかを思い浮かべ、そのショットがやりやすいウェッジは何か?で選ぶことで、最初は少し戸惑ったとしても、新しい「これだ!」というひらめきを得られれば、それは道具とともに進化していく楽しいゴルフライフになると思います。