ロフトピッチで選ぶと失敗する?100ヤードを基準にする自分だけのセッティング

みなさんはウェッジのセッティングを考えるとき、どうやって決めていますか?
よくあるのが「Pwが46度だから、間を均等にして50度、54度、58度かな」といったように、「ロフトピッチ(角度の間隔)」だけで機械的に揃えてしまうパターンです。
実はこれ、実際のプレー時にアプローチの窮屈さを招く典型的な罠なのです。
今回はロフトの数字に沿ったイメージではなく、物理的にクラブとボールの間で起きている現象を紐解く目線から、本当に実戦で結果が出るウェッジセッティングの考え方を整理してお伝えします。


「100ヤードを何度のロフトでどう打っているか」という事実を確認する

セッティングの起点は、一番下のSwではありません。
まずは「自分が今、何度のロフトのクラブを使い、どんなスイングで100ヤードを打っているのか?」という客観的な事実を整理・確認してみてください。
この「100ヤードを打っているクラブのロフトと状態」を観察していくと、自ずと自分のスイングと道具への依存度(余裕をもって自力で打てているのか、クラブの軽さやシャフトのしなり戻りに助けられているのか)が見えてきます。
そのうえで、ご自身の現状に合わせて、まずは100ヤード程度を打つクラブとして、それぞれどのような性能のヘッドを選ぶべきかを見ていきましょう。

・道具の性能(軽さやしなり戻り)に頼らず、自力でしっかり打てている場合
このタイプの方は、素直に「フルショットがしやすい性能」のヘッドを選んでいくのが正解です。現状で使っているロフトによって、選ぶべき性能が変わってきます。

現状、ロフト50度以下で100ヤードを打っている場合:
アイアンに近い感覚で振れるモデルや、アイアンセットの流れにあるPw・Gw・Awといった、構えやすさとライン出しやすさを重視した性能を選ぶのが最もスムーズです。

現状、50度より寝ているロフト(51度や52度など)で100ヤードを打っている場合:
ロフトがある分、フルショットでスピンがかかりすぎて距離が落ちたり、吹き上がったりしやすくなります。スピン量が適度に抑えられ、しっかり距離を押し出せる性能のヘッドを選んでください。
JUCIEのモデルで「100ヤードを自力でしっかり狙う」領域なら、tTウェッジ2.0 5112Tがおすすめです。適度なスピン量と伸びのある飛距離とのバランスが秀逸です。

・100ヤードを「道具の性能」を活用して打っている場合
もし「100ヤードの飛距離にあまり余裕がなく、シャフトの軽さやしなり戻りをフルに利用して飛ばしている」と認識できた場合は注意が必要です。
というのも、「フルショット」と「距離を抑えるコントロールショット」では、スイング中のシャフトのしなり方(物理現象)が変わってしまうからです。
このタイプの方は、100ヤード以下のクラブを選ぶ際には、ヘッド選びだけでなく「シャフトスペック」まで含めたセッティングを考えていく必要があります。

フルショットで勝手に飛びすぎないようにする工夫:
ウェッジだけ少し重めのシャフトを選び、クラブの飛距離性能を適度に変えてあげるのがおすすめです。この場合、「等間隔なロフトピッチ」はまったく意味がありません。実際に打ったときに何ヤード飛ぶかという「結果ベース」で距離差を見て、ロフトピッチの数字は完全に無視して選ぶのが正解です。

女性ゴルファーなど、Swまでクラブの性能をフル活用したい場合:
「短い距離のコントロール専用」として、短めで少し重めのSWをもう1本追加で入れるのが非常に効果的です。フルショット用とコントロール用で、場合によって同じロフトであっても役割を明確に分けることで、バンカーの脱出や距離のコントロールがとても簡単になります。

女子プロの具体的な例としては、複数の優勝経験のある選手で、まったく別のPwを2本入れていたり、同一メーカーではありますがPwが70g台、AwとSwは90g台でそれぞれ別のシャフトを入れていたりと、フルショットから距離調整ショットへの変化を、道具で調整しています。


100ヤード以下を「1本」で行くか、「2本」に分けて構成するか

100ヤードを打つクラブが決まったら、次はそれ以下の距離(ショートゲーム)をどうカバーするかです。ここでの選択肢は「1本でカバーする」か「2本(あるいはそれ以上)に分けて役割を持たせる」かになります。
52度で100ヤードを打ち、そのクラブでアプローチもこなし、さらに得意のSw番手1本でプレーをするのが、過去よく見られたセッティングでした。
この場合は、100ヤード用クラブでも幅広くアプローチショットをしやすくするよう、先ほど紹介をした5112Tのように、ロフトが多いのに飛距離もちゃんと出る性能だと、1本での戦略の幅が広がります。
ただ、そもそも100ヤードを50度以下のロフトで打っている場合や、最近の傾向として2本にして役割分担をさせるケースが増えてきました。
その際のポイントとして必要な性能は、まず「フルショットで距離差が確実に出るヘッドかどうか」だけです。ロフトピッチを気にしすぎると、ショートゲームで高い球が打ちにくいヘッドを選んでしまいがちですので、自分が打ちたい球筋や状況に合わせた性能で選ぶのがポイントです。
JUCIE特有の55度ラインナップから選ぶ場合は、次のような点をご参考ください。

5509B:フェアウェイの良いライから、距離のコントロール(縦距離の打ち分け)を繊細に行いたい方に最適。
5512T:フルショットで距離が出しやすく、短いショットでもロフト通りの高い球やスピンの効いた球が打ち分けやすい万能モデル。
5508G:Sw代わりになるほどオールマイティな性能。距離のあるバンカーやタフなライからでも繊細なアプローチが打てます。


数字のピッチではなく「起きる現象」で選んでほしい

ウェッジ選びで一番もったいないのは、「きれいな角度のピッチで揃えなきゃ」という思い込みに縛られてしまうことです。そして、番手で選ぶという概念も一度見直してほしいです。
100ヤードを打つ場合、飛び系の42度のPwで、軽量シャフトでフルスイングしている人や、58度のSwで余裕をもってその距離を飛ばしているプロもいます。
100ヤードを打つ場合は、ヘッドスピードの違いから、ロフトもヘッド性能も異なる様々な現象があるのに、10ヤードを打つ場合は、それほど大きな違いはありません。
ですので、その間の90ヤードを、どうやって整えていくかは、人それぞれいろいろな方法があって当然なのです。
「100ヤードを何度のロフトでどう打っているか」という事実から自分の状態を認識し、100ヤード以下を 1本でシンプルにいくか、Swの他にもう1本足して役割を分けるのかを決める。そして、ロフトの表記数字にとらわれず「実打で何ヤード飛ぶか」というリアルな結果をもとに、ショートゲームで自分が一番ラクに楽しく打てるセッティングをぜひ見つけてみてください。

フルCNC加工がもたらす、「本当の精度」とは?

今回のテーマは、ジューシーの現在販売しているすべてのクラブに共通する「フルCNC加工」についてです。
最近、アイアンやウェッジに「CNC加工」を取り入れているクラブをよく見かけるようになりました。完全に全体を削り出す「フルCNC」もあれば、バックフェースなど一部だけに施している「部分的なCNC」もあります。
ジューシーがすべてのモデルで「フルCNC加工」にこだわり続ける理由はなぜなのか?
そして、単なる「見た目の美しさ」ではない、ゴルファーにとっての本当のメリットとは何なのか? についてお話ししたいと思います。


「CNC加工 = 精度が高い」とは限らない?

そもそもCNC加工とは、コンピュータで数値制御された機械加工のことです。手作業に頼らず、プログラムによって正確な加工を何度でも再現できるのが最大の強みです。
一見すると「手作業より精度が高い」と思われがちですが、ここで大切なのは「何に対しての精度なのか?」という点です。
実は、「一部分の精度」を優先するあまり、クラブとして最も重要な「別の部分の精度」が犠牲になっている例が少なくありません。
この違いを分かりやすくするために、「陶器の湯呑み作り」を例に挙げてみましょう。


「達人の湯呑み」と「表面だけのCNC」

ここに、陶芸の達人が作った素晴らしい湯呑みがあるとします。
達人の湯呑み
外側の曲面が美しいだけでなく、長年の勘と指先の感覚によって、内側の壁も外側に綺麗に追従しています。全体が均一で適切な肉厚になっているため、焼き上がりの強度が保たれ、割れにくい構造になっています。

では、この湯呑みを「機械加工(CNC)」で高精度に再現しようとしたらどうなるでしょうか?
ケース①:適当に作ったベースの外側だけを、達人の形に削った場合
ベース(元々の素材)の形が揃っていないのに、外側だけをきれいにCNCで削り出した場合、外側は達人の湯呑みに似ていても、肉厚は均一にならず、強度不足でわれてしまいうこともあります。
ケース②:容積を統一するために、内側だけを完璧な円筒形にした場合
内側を機械で綺麗な円筒形にくり抜くと、やはり肉厚がバラバラになります。万が一、加工の中心が少しでもズレれば片側だけが薄くなり、強度不足で割れてしまいます。

どちらのケースも「見た目が美しい」「容積が正確」といった一部分の精度は上がっていますが、湯呑みとしての基本性能(強度・耐久性)はむしろ悪化しています。
これが、「デザインや仕上げのためだけに施されたCNC加工」の落とし穴です。
達人の湯呑みを真の精度で再現するには、「内側も外側も、すべて同時に機械加工(フルCNC)」を行うこと。そうして初めて、製品全体としての精度が高いと言えるのです。


ジューシーがめざす本当の精度とは

クラブ造りもまったく同じです。
バックフェースのデザインやフェース面のミーリングを綺麗に見せることも大切ですが、ジューシーが最も大切にしているのはもっと根本的な「基本性能の精度」です。
ライ角・ロフト角が、設計データ通り完璧に再現されているか?
フェースの輪郭、ソールの当たり方、構えやすいネック形状が寸分狂わず作られているか?
これらは当たり前のように思えて、実は研磨職人の手作業に頼ると最も個体差(ばらつき)が出やすい部分でした。
ジューシーは、この個体差を押さえるために「フルCNC加工」を採用しています。
重心位置、ライ角・ロフト角といった基本性能を一切損なうことなく、狙い通りの形状を完全に再現する。これこそが、私たちが追い求める「本当の精度」です。
性能の個体差を何よりも嫌うツアープロへのウェッジサポートにおいて、同じフィーリングのクラブを寸分違わず提供できるのも、このフルCNC加工があるからこそです。


達人を超えたものづくりを、最良の手段で

「それなら、コストをかけてどのメーカーもフルCNCで作ればいいのでは?」と思われるかもしれません。あるいは、「そこまでの精度は求めていないから、コストを下げてほしい」という考え方も当然あると思います。
だからこそジューシーは、ただ機械で削るのではなく、「設計力」と「フルCNC」を掛け合わせることで、達人の手作業すら超えるクラブを目指しています。
達人の作ってきた美しい形状を保ちながら、手作業では不可能なレベルで正確な性能を叩き出すこと。
結局のところ重要なのは、「どう作るか(手段)」ではなく、「何を作るか(目的)」です。そこに誇れる性能が伴っているかどうか。
例えば最新の「cHアイアン」は、軟鉄アイアンとして最大級の慣性モーメントと心地よい打感を両立していますが、これはフルCNCでなければ絶対に実現できない設計でした。
今後も私たちは、CNCという言葉のイメージに甘んじることなく、あくまで「最高の性能を生み出すための手段」としてものづくりに向き合っていきます。
CNCをアピールするゴルフクラブを選ぶ際は、ぜひ「このCNC加工は何のために施されているのか?」「本当に欲しかった精度が上がっているか?」という視点でも見てみてください。そうしていただければ、ジューシーのクラブに込めた想いと本当の価値を、より深く感じていただけるはずです。

cHアイアンが、大き過ぎず、つかまり過ぎない理由

「やさしいアイアンは、ゴルフ歴の長いゴルファーには扱いづらい」
このような先入観を、無意識のうちに抱いている方は少なくありません。
特にヘッドスピードの速いプレイヤーにとっては、「やさしさ=意図しない飛びすぎ(縦の距離ブレ)」という致命的な懸念に直結することがあります。そのため、スコアをマネジメントする上級者ほど、高性能を謳うアイアンを本能的に避けてしまう傾向があります。
今回は、私たちがcHアイアンを設計するにあたり、なぜ「プロや上級者が実戦でシビアにピンを狙える『真のやさしさ』」を実現できたのか、その開発ロジックをお話しします。


「安心感」の性能を解剖する

まず、一般的に「やさしいクラブ」とされる性能を整理します。
普遍的な要素としては、「ミスヒットへの寛容性(打点のブレに強い)」と「球の上がりやすさ(飛距離性能)」が挙げられます。この性能を本当に感じられるクラブは「やさしいクラブ」といえるでしょう。
問題は、主にアベレージプレイヤー向けに付加される“見た目の安心感”にあります。
「うまく当たらないかもしれない」という不安を消すための大型で厚いトップブレードや、「スライスするかもしれない」という恐怖心を抑えるための強いグースネック(FP値が小さい形状)。
これらはミスを未然に防ぐための記号(デザイン)ですが、同時にベテランゴルファーにとっては別のデメリットを生む原因になってしまいます。


上級者が「一般的なやさしいアイアン」を敬遠する理由
芯を捉える技術を持つゴルファーやプロが、上記のようなやさしいクラブに感じる使いづらさは、以下の4点に集約されます。
弾道コントロールの制限:ミスに強い(直進性が高い)挙動は、インテンショナルに球筋を操作したい上級者にとって、意思が伝わりにくいというデメリットになります。

過剰な強弾道:速いヘッドスピードに対して低重心的な球が上がりやすさや飛距離性能は、ターゲットに対する縦の距離ブレを誘発します。

シビアなライでの抵抗:試合会場のようなタフなセティングのコース(ラフや傾斜地)では、ヘッドの大きさがそのまま芝の抵抗や構えづらさに繋がり、振り抜きを悪化させます。

左への過度なつかまり:スライスを克服したプレイヤーにとって、特にショート番手での「つかまりすぎる性能」は左への大ミスを連想させ、実戦で思い切って振れなくなります。


cHアイアンにおける開発アプローチ

現代のスイングに適合する「慣性モーメント」
cHアイアンの根幹のテーマは、慣性モーメントの最大化によるミスへの強さです。これはアイアンの進化において不可欠な性能です。
「慣性モーメントが大きいと操作しにくい」というのは過去の常識です。現代の大型ドライバーを打ちこなすスイング(打点ではなく、スイング方向とフェース面でコントロールする現代的なスイング)においては、この高慣性モーメントはもはやデメリットになりません。むしろ上下の慣性モーメントも高めたことで縦の距離ブレが抑えられ、距離感をシビアに合わせる正確性を生み出しています。

スピン性能と飛距離の最適化
飛距離性能については、あえて低重心や過度な深重心にはしていません。立ちすぎていない適切なロフト設計とし、ダウンブローに打ち込んでいくことで、安定した高いバックスピン量を確保します。
さらに、私たちがウェッジ設計で培ってきたソールアクションを番手別に最適化して採用。ソールが最後の一押しを担うことで、適正なスピン量と狙い通りの飛距離を緻密に両立させています。

視覚的な「安心感」と、実戦での「振り抜き」の両立
「構えたときの安心感」と「タフなコンディションでの扱いやすさ」。この相反する要素を両立させるために、さまざまな意匠を施しました。

・錯覚を利用したフェース・ジオメトリ
実際のサイズ以上に、構えた瞬間に適度な安心感が得られるよう、視覚的なアプローチを取り入れています。フェースの頂点の位置、スコアーラインの配置など、細部にわたり「大きく見える工夫」を凝らしました。

・接地面積を抑えたヘッド形状
アドレス時の見た目は安心感がありながらも、実戦での芝の抵抗を軽減するため、フェース形状とあわせて、特にトゥ側の形状を綿密にチューニング。ソールの接地面積は一般的な小ぶりの鍛造アイアンと同程度に抑えています。これにより、ラフや傾斜からでも淀みなく振り抜くことが可能です。

「グースネック」の本質的な再定義
ここがcHアイアン設計における最も重要なポイントです。
私たちが求めたのは、かねてよりお伝えしている「フェースキープ性」を高めること。すなわち、「フェース面をシャフト軸とは独立して、鮮明にイメージできる形状」です。
しかし、従来のグースネックにありがちな「ネックから不自然に折れ曲がってフェースに繋がる視覚的な違和感」は極力排除しました。
そもそもグースがやさしいとされる本質は、ヘッドの重心位置がシャフト軸(ライ角面)から後方にあることで、これがロングアイアンのつかまりやすさを助ける点にあります。しかし、もともとつかまりの良いショート番手まで重心を後方に移動してしまうと、上級者にとっては左への恐怖心が勝る、実戦では使えないクラブになってしまいます。
cHアイアンはこの重心設計を非常に繊細に行いました。
「視覚的なグースの違和感はないのに、フェースをしっかり後ろに感じられる。それでいて、重心は深くしない」 事実、ショート番手のFP値(フェースプログレッション)は、tQアイアンよりも大きく(ストレートに)設定されています。


すべてのゴルファーに応える、真の番手別設計

cHアイアンは、単なる弾道性能の追求にとどまりません。アドレス時の視覚効果、あらゆるライに対応するソール形状、そして番手ごとの最適な重心設計。
これらを全番手において徹底的に突き詰めることで、アベレージゴルファーが恩恵を受けられる寛容性と、ベテランゴルファーが純粋に追い求める『一打の最適解』に応える確かなパフォーマンスを一本のアイアンに同居させました。

ものづくりとしての合理性と感性を融合させた、JUCIEが提案する新しいフルCNCキャビティアイアンの性能を、ぜひ体感してください。

ミッドサイズキャビティの本質

前回からの続きです。勝手に名付けたゴルフクラブのカンブリア紀に、プロも使えるやさしいクラブとして一世風靡をしたクラブが、世界でそして日本でもありました。それらの共通点は、慣性モーメントがしっかりと大きいミッドサイズキャビティということでした。それらを時系列的に調べると、継承された大きな共通点があったり、その進化の過程で隠れた名器が存在していたり、とても楽しい時間旅行でした。ですが、現在にはその機能を継承したクラブを見つけることは難しい状況です。


急激な環境変化
私がクラブ設計の道に入ったのは1997年。その頃には既にゴルフ業界に大きな変化が次々と起こっていました。
まずドライバーの素材がチタンに変わっていったこと。このことによって、ヘッドサイズは年々大型していき、ステンレスヘッドの最大が220㎤だったところから、2008年に上限が460㎤となるまでドライバーだけが急激に変化していきました。
さらに、ツアー選手を含めボールの構造が糸巻きバラタからツーピース、そしてスピン性能を劇的に変化させたウレタン系カバーボールの登場によって大きく変化しました。
また、少なくとも日本では景気悪化によるゴルファー人口の減少と、新規ゴルファーが生まれにくい環境となり、各社のモデル数は激減していきました。


売れるクラブを作り続ける必要性
ゴルファー減少の中、モデル数を絞りつつ、売り上げを確保していくということは、既存のゴルファーを大切に考え、課題に対応していくこととなります。
その結果、プロを含めた競技ゴルファー系の方々に特化したいわゆる上級者モデルがゆっくりとした進化していく流れと、一般ゴルファーのうち、ボリュームゾーンと呼ばれる方々のゴルフ熟練度と年齢の変化に合わせたモデルが開発されることとなります。
上級者モデルは、マッスルからハーフキャビティ・コンパクトキャビティの割合が変化していくだけにとどまり、強いショット時に低スピン化するボールに適応できなかったロングアイアンは少しずつ減っていきました。
一般モデルは、年齢と共に落ちる飛距離を補うことがなによりも大事で、熟練度はあがっていきましたから、慣性モーメントの大型化よりも、低・深重心化と、#7アイアンの飛距離性能をUPすることが、売れ行きを左右する大事なファクターとなりました。


性能表現の単純化がまねく収束感
さらに、失敗できない雰囲気から、クラブ選びにわかりやすさが求められ、性能をあらわすキーワードが独り歩きしていきます。最近の事例では、超大慣性モーメントドライバーがそうです。数年前のことですが、プロの使用者も激増して世界的にヒットしたドライバーがありました。そのクラブが他のクラブと違うところが、超大慣性モーメントだったことで、それ以降、他社もメディアも大慣性モーメント時代が来るぞとなりましたが、その売れたクラブの神髄は、大慣性モーメント化のデメリットを感じさせない、とてもバランスのとれた重心性能にあったのですが、「大慣性モーメントが良い」というキーワードが独り歩きしてしまい、各メーカーは大慣性モーメントを競うようになりました。しかし、結局のところ、ヒット作を超える性能のものはほとんどなく、ごく最近は、別の方向へシフトしています。
これと同じようなことが、カンブリア紀以降ミッドキャビティにもおこりました。ミッドキャビティの良いところは、タフなコースセッティングでも戦えるギリギリのサイズで、慣性モーメントが大きいこと。デメリットは、フェースコントロール性がルーズなことでした。開いて閉じる打ち方が主流だった当時は、そのデメリットがもっと影響していたと思います。そのデメリットを解消するために、名器たちは独特のヘッド形状をしていて、その中で大きくフォーカスされたのが、グースネックでした。そこから、グースネック=やさしい というキーワードが生まれてしまい、上級者が拒んだこともあり、グースネックは徐々に一般モデルのみとなり、とても良い性能だったミッドキャビティは少数派となって姿を消すこととなりました。


時代の変化に新しい波
姿を消したミッドキャビティですが、あらたな変化が起きたことにより、絶対に必要な性能となると考えています。その変化とは、大慣性モーメントドライバーを、ゴルフを始めた時から使っていた若いプロゴルファーの出現です。先に話したモデル開発の2極化した流れのうち、プロ上級者向けの性能は緩やかな変化と言いましたが、この変化のポイントは、激変するドライバーへの対応がメインで、弾道・フェース面を意図的にコントロールするアイアン型のスイング技術を変えないまま、大型ドライバーを打てるように設計することでした。そこに、大型ドライバーのメリットを効率よく生かすスイングをする選手が台頭することとなり、また急速に進化した弾道・インパクト測定機の出現も相まって、飛距離の出し方や、弾道コントロール方法も、新しい技術へと変わってきました。そうなると、今までのアイアンベースのスイングではなく、ドライバーベースのスイングと同様のスイングがしやすいアイアンが必然的に必要となってきます。それが、今回cHアイアンの性能としてフォーカスをしたミッドキャビティです。


フェースキープ性を高める新解釈
cHアイアンの開発でたどり着いたのは、ミッドキャビティの名器たちの特性をしっかりと解釈し、グースネックではないもう一つの共通点であるフェース形状でした。これらの独特なフェース形状の本質は、グースネックの効果と思われていた、フェース面をシャフト軸よりも後方に感じて、フェース面の向きをキープしたスイングをイメージしやすいことでした。ただ、そこにはまだまだ考察の余地があり、特に、ロフト角によって変化する構えた時の印象を、重心性能の最適化とあわせて、どのように調整していくかが、不完全だったのかもしれません。
今回私は、その点チャレンジしました。フェース形状の変化を重心性能としっかりと結びつけながら、グースではないネック形状で、FP値と輪郭をリニアに変化させていく手法。フェース形状を決めるさまざまなファクターを連動した数式化することで、フェースだけ見るとロングアイアンとショートアイアンでは別のシリーズに見えるような形状を採用しながら、構えた時の違和感はなく、むしろ共通の印象で、フェース面をキープしながら打てる新感覚なアイアンセットとして、完成させることができたと思います。


得意技の封印と解放
私のキャリアに話を戻すと、30年近くのクラブ設計の中で培ってきたのは、進化し二極化していくクラブの未来を考察し、ゴルファーに寄り添う道具を作ることでした。これまでは、プロの技術を最大限に引き出すウェッジや、ミスを補い楽に飛ばせるアイアンなど、いわば「道具がプレーヤーを助けてくれる性能」を追求し、それを自分の得意技としてきました。
しかし、今回のcHアイアンで挑んだのは、その流れとは全く異なる新しい性能です。「道具に助けてもらう」のではなく、「自分の力を最も気持ちよく発揮できる」クラブ。この新しい設計思想にゼロベースで挑むため、あえて自分のこれまでの得意技を一度封印しました。
そして、この新しいアプローチを証明するために、実は同時進行でもう一つの開発を進めていました。それは、私の得意技をフル活用し、高慣性モーメントや飛距離性能といった「アシスト機能」を高次元でバランスよく詰め込んだ、もう一つの理想形です。伝統的で美しいフェース形状の中に、緻密な優しさを融合させたこの対比的なモデルは、cHアイアンの思想を裏付ける存在でもあります。
このモデルの登場はもう少しだけ後になりますので、また改めてお話しさせてください。
次回からは、まずはこの新しい挑戦の第一弾である、cHアイアンの性能についてさらに深く掘り下げていきます。

令和のイケメンに込めた想い

大変お待たせいたしました。2026年4月、ついにcHアイアンの出荷を開始しました。
これまでAIに新モデルについて尋ねても、「メーカーのSNSで匂わせ投稿があるため、近々発表されるのでは……」といった回答しか得られない状況が続いていました。ようやく皆様に、その詳細な性能と想いをお伝えできることを嬉しく思います。


プロが即投入した「真のやさしさ」
嬉しいことに、cHアイアンはすでにプロツアーでの実戦投入を果たしています。
レギュラー・シニア両ツアーで活躍する経験豊富な選手にこの性能を高く評価いただき、即座に武器として採用されました。実績のない「名ばかりのツアーモデル」や、根拠の薄い「やさしさ」を謳うクラブが溢れる中、私たちが目指した『プロも使えるやさしいクラブ』を早々に実証できたことは、ゼロからの挑戦だっただけに少しホッとしました。


20年近く変わらない「評価基準」への違和感
なぜcHアイアンのテーマを「令和のイケメン」にしたのか。
その理由は、近年のゴルフクラブに対する評価基準へのアンチテーゼにあります。
現在、クラブの「格好良さ」の多くはバックフェースのデザインで語られがちです。もちろん構えた時のフェース形状も重視されますが、いわゆる「上級者好み」の形状は、この20年近く大きな進化がないように感じていました。そのため、「良い顔していますね」というコメントが、バックフェースのことを指していることも多くなってきました。
私たちは『構えた時の印象』がとても重要だと考えています。だからこそ、公式サイトでは代表番手だけでなく、全番手の顔(アドレス時の画像)を掲載しています。


新時代のゴルファーに、旧来の基準は必要か?
コロナ禍を経て、ゴルフ界には新しいゴルファーが増えました。私の周りでも、友人やその後輩から初めてのクラブ選びに対する相談を受ける機会が増えています。
そこで感じたのは、『旧来のゴルファーが尊んできた「格好良さ」の基準を、今のユーザーに押し付ける必要はあるのか?』という疑問です。それこそ構えた感じの格好良さについては、スイング中のフェースコントロールやインパクト時の打点コントロールの達人たちが好んだフェース形状が、はたして、大型ドライバーからスタートし、SNS等で最新のゴルフスイングを参考に練習する人々にとって、本当にベストなフェース形状なのだろうか?という疑問を強く持つようになりました。


「令和のイケメン」という解
新しいスイングを取り組むゴルファーへの性能としてフェース形状に着目をしたところからは、急加速でイメージが広がっていきました。今の時代にふさわしい、新しい格好良さとは何か。そこで浮かんだキーワードが『令和のイケメン』でした。
この言葉を深掘りすると、私の設計思想の根幹と驚くほど合致したのです。
AIが定義する「令和のイケメン」の要素を整理すると、

清潔感と安心感: 威圧感を与えず、すっきりと洗練されたイメージ。

本質へのこだわり: 流行に流されず、良質な素材や自分に合ったものを選ぶ。

スマートな多様性: 他人との比較ではなく、自身の目標に対して背伸びせず向き合う。

この「すっきりとしていて、押し付けがましくないが、芯がある」という佇まいこそ、新しいアイアンに込めたかった理想そのものでした。


ゴルフクラブのカンブリア紀に思いを馳せて
コンセプトが決まり、次に着手したのは具体的なフェース形状の考察です。それと同時に現代のトレンドでもある大慣性モーメントドライバーを打ちこなすスイングをアイアンでも出来るように、慣性モーメントを大きくするのが必須ですが、ハードなコースセッティングでも使えるギリギリのサイズ感を維持することも大切ですので、過去、そのような性能に近かったモデルをあらためて確認・研究していきました。特に学ぶべきことが多かったのは、各メーカーが多種多様なモデルを競い合っていた80年代後半から90年代にかけてのモデルです。まさにゴルフクラブのカンブリア紀といえるでしょう。カーボンフェースやカーボン複合中空アイアンも含め、いまでは使えない貴重な金属を用いたモデルなど、デジタル設計以前の「プレーヤーの感覚」を重視した個性豊かな形状には、現代では失われてしまった視点や、驚くべき知恵が詰まっていました。今の設計スキルをもって、この頃にモデル開発をすることができたら、どんなに楽しかったのだろうと感じました。


絶滅危惧種をメインストリームへ
あれだけ栄えた個性豊かなゴルフクラブが、なぜ無くなってしまったのか。それには複数の要因があると思われます。景気の後退・ボールの大きな変化・新規ゴルファーの減少・ドライバーだけに起こる進化などなど。そのなかでcHアイアンの役割として、実際にどのような性能のモデルを参考にし、どのように「令和モデル」へと昇華させたのか。
その具体的な背景やプロセスは、次回の更新でお伝えします。