ウェッジ選びの常識をリセットしてもよいのでは? -中編-

前回、「スピン性能で選ぶときは絶対値ではなく、期待通りのスピンがいつも出るか?」を重視してほしいというような話をしました。
今回は、もう一つの違和感として、「バンス角の数値を優先してウェッジ選びをするのはもったいない」という内容について話していきたいと思います。


ローバンスウェッジは難しい?

ローバンスウェッジというジャンルはいつごろ確立されたのでしょうか・・・
ウェッジがアイアンセットに含まれているのが当たり前だったころ、Swはバンカーで使いやすいお助けクラブでしたし、ストロングロフト化が進み始め、Pwのロフトが40度台になったころから、Swとの間にW、Aw、Gw、P/Sなどと呼ばれるクラブが登場し、単純にはPwとSwの距離差を埋める性能が求められるようになりました。その後、Swに近い悪いライへの対応に特化したクラブや、Pw以上に距離のピッチを刻みやすいアプローチ性能に特化したクラブへと少しずつ進化・変化していったように感じています。
さらに変化が起こり、ウェッジだけのシリーズとして、さらには番手表記ではなくロフト表記となった、いわゆる現在の単品ウェッジと呼ばれるウェッジが生まれました。
それまでは、単品ウェッジと言うと、バンカー脱出に特化したクラブや、チッパーに代表される転がしに特化したクラブなど、お助け機能に特化したクラブばかりでした。
その単品ウェッジを積極的に取り入れたのがプロゴルファーで、さまざまなプレーヤーの要望に合わせていろいろな性能へと変化していきました。その変化の大きな要素は主にソール性能であり、ソールを積極的に使う人や、さまざまな入射角でも邪魔にならないソールを好む人に合わせた性能のクラブが生まれてきました。

そこにさっそうと現れたのが、ハイスピン系のウェッジです。このハイスピン系のウェッジは、スコアラインの鋭さや当時のボールの性能にもよりますが、ソール性能としてはバンス効果が強いものと相性がよかったため、バンス効果が強いモデルが増えました。その流れに乗らず、スピン性能よりも多彩なショットが打ちやすい、バンス効果の弱いモデルを好むプロのために生まれたのが、初期のローバンスウェッジです。
そして、このローバンスウェッジを使っていた人たちが、当時ウェッジワークに長けた方々であったため、その意見を取り入れたウェッジはシャープな性能となることが多く、その結果ローバンスウェッジは難しいという印象が定着していきました。


ローバンス≠バンス角が小さい

ではそもそもローバンスとはどういう意味でしょうか?
私は、「バンス効果が弱い」と言うように説明をしています。単純にバンス角度が小さいとは言いません。しかし、現在のウェッジ選びでは同義としているのが通説です。
少し難しい表現をしてしまいますが、バンス効果の強弱をバンス角度のみで評価するのは、「1次元的」な見方と言えます。角度といっても、何に対してという部分が曖昧で、結局は多いか少ないかで判断してしまいます。それでは本来の性能にたどり着けないので、少なくともウェッジの断面を想像して、その楔形の状態を判断する「2次元的」な見方をしてほしいです。
断面を見れば、ソールの幅・厚みの違いや、ソールが平らか丸いか?さらには、接地位置が前か後ろか?などが見えてきます。角度といっても、例えばロフト56度バンス8度と、ロフト60度バンス12度では、楔の角度は同じであることなどがわかると思います。
これらの性能が、最初はその効果がどう影響するのかわかりにくくても、意識することで少しずつご自身の打ち方に合った条件が見えてくると思います。


さらに理解を深めるには、トゥ・ヒール方向の形状の変化をしっかりと考慮する「3次元的」な見方が重要だと思います。この方向のソールの丸みや、開いたときの変化などに目を向けると、もっとウェッジの持っている本来の性能が見えてくるはずです。
そして、私はその先の「4次元的」な見方を大切に設計しています。この話は次回にしたいと思います。


ジューシーウェッジのラインアップに込めた想い

いろいろとお話ししましたが、これらのさまざまな性能を考慮して生まれたのが、ジューシーのウェッジシリーズで、58度だけを見てもB・S・K・G・Tの5種類があり、それぞれが個性的な性能となっています。特にB・S・Kはバンス角がどれも10度です。角度で選んでしまうとどれも同じですが、バンス効果としては、Sが一番弱く、Bが標準的、Kが少しだけ強めとなっていて、打っていただければ、それはすぐに体感していただけると思います。
Tソールは、バンス効果が特殊で、近い距離でのスピン量が安定して増えることを目的としたバンス効果と、開いたときも程よいバンス効果を発揮します。
そして、Gソールについては、角度は8度ですが、バンス効果はBソールと同程度で、さらにはストレートに使っても開いて使っても、できるだけ同じようなバンス効果を発揮できるよう、微妙な丸み調整を行っています。さらに、今回tTウェッジ2.0として進化する際に、バンス効果を少し強めてKソールと同程度としています。ですので、「バンス角8度だから」「ローバンスだから」という先入観を捨てていただいて、バンス角度の数値ではなく、打ちたいショットに効果的にソールが機能するかという指標で選んでいただきたいという想いを感じていただければと思います。