「使えるやさしいクラブ」のその先へ

今回は、2026年を迎える今、ゴルフクラブ設計にどんな思いをのせていきたいかについて、ただただ書いていきたいと思います。


現在のクラブ選びに欠かせないキーワード
最近のクラブ性能について取材を受ける際にキーワードになっている言葉が、見出しにも書いた「使えるやさしいクラブ」です。いままでプロや上級者はコントロール性を重視した「使える難しいクラブ」を好んで使うことが多く、その逆にアマチュアは、間違った動きや足りないスピードを強くアシストする、上級者にとっては「使えないやさしいクラブ」を使っているケースが多くありました。しかし、結果が数値でわかる測定器が一般化して以降、少しずつ変化していき、特に大慣性モーメントドライバーの打ちやすさがしっかりと進化した結果、その「やさしさ」はプロにもメリットとなり「使えるやさしいクラブ」となりました。それ以降、FwやUT・アイアンなどのクラブに対しても「使えるやさしいクラブ」を求めるような流れが強くなっているように感じます。


綱渡りから、頑丈な橋へ
私は、この大型ヘッドへのクラブの進化について分かりやすく説明するのに、谷を速く渡る方法にたとえた話をよくしています。谷を向こう岸へ渡る際、パーシモンヘッドのような小さなドライバーは綱渡りのイメージ。この時代は、綱の上をバランスを取って速く進める人は一握りの達人でした。メタルウッド時代は、揺れる吊り橋。落ちる怖さを伴いながらも、それなりに渡れる状態。チタンドライバーは、揺れない橋。大慣性モーメント時代は道幅も広い頑丈な橋です。こうなると、向きさえ間違わなければ、全力で走ることすら可能で、だれもが安心して谷を渡ることができるようになりました。プロゴルファーの技術も、綱渡りの達人ではなくアスリート的に速く走れることが必要となりました。
それでは、アイアンはどうでしょうか?スイング的なトレンドはアスリート的になってきていますが、まだまだ頑丈な橋とまでは言えず、吊り橋や揺れなくても手すりのない細い橋といったイメージではないかと思います。そこで、各メーカーはその性能を補おうといろいろと試行錯誤していますが、販売の現状は#7の飛距離勝負のようになっていることで、吊り橋を丈夫にするよりも、速く渡れないなら、橋を下り坂へ傾斜させてしまえというような、過度な軽量ストロングロフト化も進んでしまっています。


リアルなゴルファーは、なにを思って橋を渡るのか?
わかりやすい正論としては、今まで書いてきたような内容ですが、2026年に向けて私が設計で重視しているのは、実際のゴルファーは、理想的ではない動きを無意識、あるいは意識的に取り入れ実践していることを、もっと深く理解して設計をしていきたいということです。先の例を用いるなら、私が恩師から聞いた面白話にヒントがありました。
「エベレストのような過酷な条件で細い尾根を進むとき、右側は4000mの谷、左側は2000mの谷となっていると、どちらに落ちようが命はないのですが、何となく左側に傾いて進みたくなってしまうもんだ」という話です。谷を渡るたとえなら、そこまで急がなければ安心して渡れる橋なのに、谷の浅い方へ傾いて走ってしまう状態。まさにこれが注視すべきゴルファー心理で、ミスをしたくない一心で、理想とは違う動きを積極的に取り入れることが良くあるということです。こうなると、「使えるやさしいクラブ」でも理想的な弾道にはならず、負のマインドが蓄積してしまいそうです。
また、ドライバーも含めてですが、綱渡りで進むことが自身の慣れ親しんだゴルフだという思いが強く、道幅の広くなった橋の上でも、両手を水平に広げてバランスを取ることを怠らない、律儀なスウィングを心がける方々もまだまだたくさんいらっしゃいます。


ジューシーNEWモデルの方向性
2026年からジューシーは新しい展開をしていきたいと思っています。
本当の「やさしい」を打って感じられるクラブを増やしていきます。
谷を渡るたとえなら、まずは、確実にすこしでも丈夫で、道幅も広く設計すること。そうすることで、今の時代に必要な「使えるやさしいクラブ」とすることができますし、そのうえでさらに、どうしても谷の浅い方へ傾いてしまう人が多いなら、道をこっそり深い方へ傾けて設計をする。もしくは、安心できるよう深い方に柵をつけてあげるなど。そして、安易な下り坂の橋ではなく、スタートだけこっそりと緩やかな下り坂にしてあげるような、安心して進むことができる適度なアシスト感。手を水平に広げて進むなら、それでも気持ちよく走れる、フィードバックが感じやすい性能などなど、ゴルファー心理に寄り添った「やさしさ」で、安心して「ダッシュ」できるようなシリーズをすこしずつ展開していけたらと思います。