フルCNC加工がもたらす、「本当の精度」とは?

今回のテーマは、ジューシーの現在販売しているすべてのクラブに共通する「フルCNC加工」についてです。
最近、アイアンやウェッジに「CNC加工」を取り入れているクラブをよく見かけるようになりました。完全に全体を削り出す「フルCNC」もあれば、バックフェースなど一部だけに施している「部分的なCNC」もあります。
ジューシーがすべてのモデルで「フルCNC加工」にこだわり続ける理由はなぜなのか?
そして、単なる「見た目の美しさ」ではない、ゴルファーにとっての本当のメリットとは何なのか? についてお話ししたいと思います。


「CNC加工 = 精度が高い」とは限らない?

そもそもCNC加工とは、コンピュータで数値制御された機械加工のことです。手作業に頼らず、プログラムによって正確な加工を何度でも再現できるのが最大の強みです。
一見すると「手作業より精度が高い」と思われがちですが、ここで大切なのは「何に対しての精度なのか?」という点です。
実は、「一部分の精度」を優先するあまり、クラブとして最も重要な「別の部分の精度」が犠牲になっている例が少なくありません。
この違いを分かりやすくするために、「陶器の湯呑み作り」を例に挙げてみましょう。


「達人の湯呑み」と「表面だけのCNC」

ここに、陶芸の達人が作った素晴らしい湯呑みがあるとします。
達人の湯呑み
外側の曲面が美しいだけでなく、長年の勘と指先の感覚によって、内側の壁も外側に綺麗に追従しています。全体が均一で適切な肉厚になっているため、焼き上がりの強度が保たれ、割れにくい構造になっています。

では、この湯呑みを「機械加工(CNC)」で高精度に再現しようとしたらどうなるでしょうか?
ケース①:適当に作ったベースの外側だけを、達人の形に削った場合
ベース(元々の素材)の形が揃っていないのに、外側だけをきれいにCNCで削り出した場合、外側は達人の湯呑みに似ていても、肉厚は均一にならず、強度不足でわれてしまいうこともあります。
ケース②:容積を統一するために、内側だけを完璧な円筒形にした場合
内側を機械で綺麗な円筒形にくり抜くと、やはり肉厚がバラバラになります。万が一、加工の中心が少しでもズレれば片側だけが薄くなり、強度不足で割れてしまいます。

どちらのケースも「見た目が美しい」「容積が正確」といった一部分の精度は上がっていますが、湯呑みとしての基本性能(強度・耐久性)はむしろ悪化しています。
これが、「デザインや仕上げのためだけに施されたCNC加工」の落とし穴です。
達人の湯呑みを真の精度で再現するには、「内側も外側も、すべて同時に機械加工(フルCNC)」を行うこと。そうして初めて、製品全体としての精度が高いと言えるのです。


ジューシーがめざす本当の精度とは

クラブ造りもまったく同じです。
バックフェースのデザインやフェース面のミーリングを綺麗に見せることも大切ですが、ジューシーが最も大切にしているのはもっと根本的な「基本性能の精度」です。
ライ角・ロフト角が、設計データ通り完璧に再現されているか?
フェースの輪郭、ソールの当たり方、構えやすいネック形状が寸分狂わず作られているか?
これらは当たり前のように思えて、実は研磨職人の手作業に頼ると最も個体差(ばらつき)が出やすい部分でした。
ジューシーは、この個体差を押さえるために「フルCNC加工」を採用しています。
重心位置、ライ角・ロフト角といった基本性能を一切損なうことなく、狙い通りの形状を完全に再現する。これこそが、私たちが追い求める「本当の精度」です。
性能の個体差を何よりも嫌うツアープロへのウェッジサポートにおいて、同じフィーリングのクラブを寸分違わず提供できるのも、このフルCNC加工があるからこそです。


達人を超えたものづくりを、最良の手段で

「それなら、コストをかけてどのメーカーもフルCNCで作ればいいのでは?」と思われるかもしれません。あるいは、「そこまでの精度は求めていないから、コストを下げてほしい」という考え方も当然あると思います。
だからこそジューシーは、ただ機械で削るのではなく、「設計力」と「フルCNC」を掛け合わせることで、達人の手作業すら超えるクラブを目指しています。
達人の作ってきた美しい形状を保ちながら、手作業では不可能なレベルで正確な性能を叩き出すこと。
結局のところ重要なのは、「どう作るか(手段)」ではなく、「何を作るか(目的)」です。そこに誇れる性能が伴っているかどうか。
例えば最新の「cHアイアン」は、軟鉄アイアンとして最大級の慣性モーメントと心地よい打感を両立していますが、これはフルCNCでなければ絶対に実現できない設計でした。
今後も私たちは、CNCという言葉のイメージに甘んじることなく、あくまで「最高の性能を生み出すための手段」としてものづくりに向き合っていきます。
CNCをアピールするゴルフクラブを選ぶ際は、ぜひ「このCNC加工は何のために施されているのか?」「本当に欲しかった精度が上がっているか?」という視点でも見てみてください。そうしていただければ、ジューシーのクラブに込めた想いと本当の価値を、より深く感じていただけるはずです。

組み立てまでがJUCIE

こんにちは、ブログ担当のtKです。
今回は少し、JUCIEの「組み立て」について書いてみたいと思います。

皆さんご存じの通り、ゴルフクラブはヘッドだけでは使えません。
シャフトが挿さり、グリップが装着されて、初めて一本のゴルフクラブになります。
つまりゴルフクラブとは、大別すると
ヘッド・シャフト・グリップという3つのパーツを組み立てて完成するもの。
そして、その組み立ては必ず“誰か”が行っています。
実はJUCIEは、この「組み立て」にもかなりの自信とプライドを持っているんです。


今でこそJUCIEは全国の取り扱い店様へヘッド単体でも提供しています。
ですが、コロナ前までは基本的に完成品でしか販売していなかったそうです。
なぜか。
それは、「自分たちが設計した意図通りのゴルフクラブ」として自分達の手で組み立てて提供したかったから。
ヘッドを設計するだけではなく、
シャフトが入り、グリップが装着され、
一本のゴルフクラブとして完成した状態まで含めてJUCIE。
そんな考え方があったそうです。


その考え方を支えているのがツアーの現場です。
JUCIEの組み立て現場には、日々さまざまな選手がクラブを持ち込んでくるそうです。
調整だったり、組み直しだったり、依頼内容はきっと多岐にわたるでしょう。
「わざわざ組み直す必要があるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、選手がわざわざ持ち込むには理由があるはずです。
松吉氏はよく、ツアーの現場をF1やラリーに例えます。
一般ユーザーが使うクラブとは少し違う世界で、そこまでの性能や精密さ、高度な技術を支える設計は必要ないのかもしれません。
でも、そのタフな環境で得た知識や経験を、一般ユーザー向けの製品へ落とし込んでいく。
ヘッド設計だけでなく、組み立てにもそのノウハウが活きているそうです。


実は僕自身、
クラブの「振り心地」がとても気になってしまうタイプでした。
皆さんもありませんか?
「なんとなく軽く感じる」「ヘッドを感じづらい」「振り遅れる」
数値や言葉では説明しづらいけど、なんか気持ち良く振れないなぁ。
そんな感覚です。
僕は今まで、新しいクラブを手にすると、ほぼ毎回鉛を貼っていました。
ここに貼って、やっぱりこっちにも必要だな。
ちょっと貼り過ぎたな、剥がそう。
また貼ろう。
そんなことを繰り返して、自分好みに仕立てていました。
でも、ある時気づいたんです。
JUCIEで組んでもらったクラブだけ、鉛を貼っていないなと。
特別意識していたわけではなかったのですが、あまりにも普通に使えてしまっていたので、後から気づきました(笑)。
「あれ?そういえば触ってないな」と。
別に僕専用に組んでもらっているわけでもありません。
「こうしてほしい」と細かく伝えたこともありません。
なのに、不思議とそのまま使えてしまっていました。


理由は、ごめんないさい、よく分かりません。
僕自身、昔は自分でクラブを組んでいた時期もありますが、
どこをどう調整したら、こんなに違いが出るのか、分かりません。
これを言ったら「一緒にするな」と怒られそうなので言いませんが(笑)。
もしかしたら数値で説明できる部分もあるのかもしれませんし、それだけではない何かがあるのかもしれません。
ただ一つ言えるのは、僕はJUCIEで組んでもらったクラブを、何も気にせず、ノンストレスで気持ちよく使わせてもらえているということです。


各パーツメーカーが日々しのぎを削り、素晴らしい製品を生み出しています。
ヘッドメーカーも、シャフトメーカーも、グリップメーカーも、
より良い製品を目指して開発を続けています。
ですが、ゴルフクラブはヘッドだけで完成するものではありません。
シャフトだけでもありません。
それぞれのパーツが組み合わさり、一本のクラブとして完成した時に、

「使い手」がどう振れるのか。どう感じるのか。

料理で例えるなら、最高級の食材だけを集めても、美味しい料理になるとは限りません。
どんな組み合わせにするのか。どんな味付けをするのか。
その調理方法で仕上がりは大きく変わります。
ゴルフクラブも同じなんだと感じます。
どんなに良いヘッドがあっても、どんなに良いシャフトやグリップがあっても、その組み合わせや組み立てが噛み合わなければ、本来の性能は発揮できません。
だからこそJUCIEは、ヘッドの設計だけでなく、組み立てにも強いこだわりを持っているのでしょう。


もし機会があれば、
ぜひ一度、

JUCIEが組み立てたクラブ

を使ってみてください。
ヘッド性能や飛距離性能だけではなく、「振り心地」という部分にも注目していただけたら嬉しいです。
メーカーとして完璧を求める姿勢。
そのこだわりは、きっと振った瞬間に感じていただけると思います。

cHアイアンが、大き過ぎず、つかまり過ぎない理由

「やさしいアイアンは、ゴルフ歴の長いゴルファーには扱いづらい」
このような先入観を、無意識のうちに抱いている方は少なくありません。
特にヘッドスピードの速いプレイヤーにとっては、「やさしさ=意図しない飛びすぎ(縦の距離ブレ)」という致命的な懸念に直結することがあります。そのため、スコアをマネジメントする上級者ほど、高性能を謳うアイアンを本能的に避けてしまう傾向があります。
今回は、私たちがcHアイアンを設計するにあたり、なぜ「プロや上級者が実戦でシビアにピンを狙える『真のやさしさ』」を実現できたのか、その開発ロジックをお話しします。


「安心感」の性能を解剖する

まず、一般的に「やさしいクラブ」とされる性能を整理します。
普遍的な要素としては、「ミスヒットへの寛容性(打点のブレに強い)」と「球の上がりやすさ(飛距離性能)」が挙げられます。この性能を本当に感じられるクラブは「やさしいクラブ」といえるでしょう。
問題は、主にアベレージプレイヤー向けに付加される“見た目の安心感”にあります。
「うまく当たらないかもしれない」という不安を消すための大型で厚いトップブレードや、「スライスするかもしれない」という恐怖心を抑えるための強いグースネック(FP値が小さい形状)。
これらはミスを未然に防ぐための記号(デザイン)ですが、同時にベテランゴルファーにとっては別のデメリットを生む原因になってしまいます。


上級者が「一般的なやさしいアイアン」を敬遠する理由
芯を捉える技術を持つゴルファーやプロが、上記のようなやさしいクラブに感じる使いづらさは、以下の4点に集約されます。
弾道コントロールの制限:ミスに強い(直進性が高い)挙動は、インテンショナルに球筋を操作したい上級者にとって、意思が伝わりにくいというデメリットになります。

過剰な強弾道:速いヘッドスピードに対して低重心的な球が上がりやすさや飛距離性能は、ターゲットに対する縦の距離ブレを誘発します。

シビアなライでの抵抗:試合会場のようなタフなセティングのコース(ラフや傾斜地)では、ヘッドの大きさがそのまま芝の抵抗や構えづらさに繋がり、振り抜きを悪化させます。

左への過度なつかまり:スライスを克服したプレイヤーにとって、特にショート番手での「つかまりすぎる性能」は左への大ミスを連想させ、実戦で思い切って振れなくなります。


cHアイアンにおける開発アプローチ

現代のスイングに適合する「慣性モーメント」
cHアイアンの根幹のテーマは、慣性モーメントの最大化によるミスへの強さです。これはアイアンの進化において不可欠な性能です。
「慣性モーメントが大きいと操作しにくい」というのは過去の常識です。現代の大型ドライバーを打ちこなすスイング(打点ではなく、スイング方向とフェース面でコントロールする現代的なスイング)においては、この高慣性モーメントはもはやデメリットになりません。むしろ上下の慣性モーメントも高めたことで縦の距離ブレが抑えられ、距離感をシビアに合わせる正確性を生み出しています。

スピン性能と飛距離の最適化
飛距離性能については、あえて低重心や過度な深重心にはしていません。立ちすぎていない適切なロフト設計とし、ダウンブローに打ち込んでいくことで、安定した高いバックスピン量を確保します。
さらに、私たちがウェッジ設計で培ってきたソールアクションを番手別に最適化して採用。ソールが最後の一押しを担うことで、適正なスピン量と狙い通りの飛距離を緻密に両立させています。

視覚的な「安心感」と、実戦での「振り抜き」の両立
「構えたときの安心感」と「タフなコンディションでの扱いやすさ」。この相反する要素を両立させるために、さまざまな意匠を施しました。

・錯覚を利用したフェース・ジオメトリ
実際のサイズ以上に、構えた瞬間に適度な安心感が得られるよう、視覚的なアプローチを取り入れています。フェースの頂点の位置、スコアーラインの配置など、細部にわたり「大きく見える工夫」を凝らしました。

・接地面積を抑えたヘッド形状
アドレス時の見た目は安心感がありながらも、実戦での芝の抵抗を軽減するため、フェース形状とあわせて、特にトゥ側の形状を綿密にチューニング。ソールの接地面積は一般的な小ぶりの鍛造アイアンと同程度に抑えています。これにより、ラフや傾斜からでも淀みなく振り抜くことが可能です。

「グースネック」の本質的な再定義
ここがcHアイアン設計における最も重要なポイントです。
私たちが求めたのは、かねてよりお伝えしている「フェースキープ性」を高めること。すなわち、「フェース面をシャフト軸とは独立して、鮮明にイメージできる形状」です。
しかし、従来のグースネックにありがちな「ネックから不自然に折れ曲がってフェースに繋がる視覚的な違和感」は極力排除しました。
そもそもグースがやさしいとされる本質は、ヘッドの重心位置がシャフト軸(ライ角面)から後方にあることで、これがロングアイアンのつかまりやすさを助ける点にあります。しかし、もともとつかまりの良いショート番手まで重心を後方に移動してしまうと、上級者にとっては左への恐怖心が勝る、実戦では使えないクラブになってしまいます。
cHアイアンはこの重心設計を非常に繊細に行いました。
「視覚的なグースの違和感はないのに、フェースをしっかり後ろに感じられる。それでいて、重心は深くしない」 事実、ショート番手のFP値(フェースプログレッション)は、tQアイアンよりも大きく(ストレートに)設定されています。


すべてのゴルファーに応える、真の番手別設計

cHアイアンは、単なる弾道性能の追求にとどまりません。アドレス時の視覚効果、あらゆるライに対応するソール形状、そして番手ごとの最適な重心設計。
これらを全番手において徹底的に突き詰めることで、アベレージゴルファーが恩恵を受けられる寛容性と、ベテランゴルファーが純粋に追い求める『一打の最適解』に応える確かなパフォーマンスを一本のアイアンに同居させました。

ものづくりとしての合理性と感性を融合させた、JUCIEが提案する新しいフルCNCキャビティアイアンの性能を、ぜひ体感してください。

人それぞれ、クラブに求めるものは違う

こんにちは、ブログ担当のtKです。

cHアイアンが登場してから、tQアイアンとの違いを改めて感じるようになりました。
最近この2モデルを交互に使いながら、思うことがあります。
それは、
人それぞれ、クラブに求めているものって本当に違うということです。
その違いを分かりやすく例えるなら、車かと思います。


“ラグジュアリーワンボックス”のようなcHアイアン
広くて、快適で、安心感があって、乗っていて疲れづらい。
運転に気を遣わなくても、ちゃんと快適に目的地まで連れて行ってくれる。
しかも、ただラクなだけじゃなく、高級感や所有感もしっかりある。
「今日は気持ちよくゴルフしたいなぁ」
「楽しくスコアを作りたいなぁ」
そんな気持ちにさせてくれる感じです。

“上質なスポーツセダン”のようなtQアイアン。
誰が乗っても感じる快適性もありますが、それ以上に“走る楽しさ”がある。
ハンドル操作、アクセルを踏んで加速いく感じ、コーナーを気持ちよく曲がる。
運転すること自体が楽しい。
tQアイアンはまさにそんな感じで、
インパクトが揃った時のビタッ!と「点」が揃ったような快感や、
ボールを操っている感覚が本当に気持ちいい。


どっちが良い悪いではない
なので、どっちが良い悪いじゃないんです。
ラグジュアリーワンボックスが好きな人もいれば、上質なスポーツセダンが好きな人もいる。
シーンや気分によって、どちらが良いかも変わる。
実際、僕自身が今まさにそうです。
cHアイアンを使っていると、
「これ、もう快適すぎて戻れないかも……」と思う。
でもtQアイアンを打つと、
「あぁ、この“操ってる感覚”だよなぁ……」となる。
困るんですよ、本当に(笑)。

良いクラブは、自分の判断基準を明確にしてくれる
ここで改めて感じたのが、
良いクラブを使うと、自分が何を求めているかが明確になるということです。
飛距離なのか。
快適性なのか。
操作性なのか。
安心感なのか。
クラブって、ただボールを打つ道具ではなく、
ゴルファー自身の感覚や価値観を映し出してくれるものなんだなと感じます。
そして、それが分かってくると、
「自分はこれが好き」
「自分はこういうゴルフがしたい」
という判断が、自分でできるようになってきます。

これがクラブを楽しむってことだとの一つだと思います。
だからこそ、色々なクラブを打ってみてほしいです。
スペック表や数値だけでは分からない、
“そのクラブが持っている性格”が見えてくると思います。

そしてもし機会があれば、
cHアイアンとtQアイアン、ぜひ両方打ってみてください。
きっと、
「どっちが良いか」ではなく、
「自分はどっちが好きか」
が見えてくると思います。


さらに困る情報があります
……と、ここまで書いておいて、さらに困る情報があります。
「cHアイアン」には「令和イケメン」と「正統派」モデルがあり、この後「正統派」モデルのリリースが控えています。
cHアイアンをベースにその性能を継承しつつ、顔つきが変わり、さらに何か違う個性を持たせてくるのか。
cHアイアンの“快適性”をさらに伸ばしてくるのか。
それとも、また全然違う方向へ行くのか。
松吉氏のことなので、きっと単純な派生モデルでは終わらない気がします。
正直、楽しみで仕方ありません。

ミッドサイズキャビティの本質

前回からの続きです。勝手に名付けたゴルフクラブのカンブリア紀に、プロも使えるやさしいクラブとして一世風靡をしたクラブが、世界でそして日本でもありました。それらの共通点は、慣性モーメントがしっかりと大きいミッドサイズキャビティということでした。それらを時系列的に調べると、継承された大きな共通点があったり、その進化の過程で隠れた名器が存在していたり、とても楽しい時間旅行でした。ですが、現在にはその機能を継承したクラブを見つけることは難しい状況です。


急激な環境変化
私がクラブ設計の道に入ったのは1997年。その頃には既にゴルフ業界に大きな変化が次々と起こっていました。
まずドライバーの素材がチタンに変わっていったこと。このことによって、ヘッドサイズは年々大型していき、ステンレスヘッドの最大が220㎤だったところから、2008年に上限が460㎤となるまでドライバーだけが急激に変化していきました。
さらに、ツアー選手を含めボールの構造が糸巻きバラタからツーピース、そしてスピン性能を劇的に変化させたウレタン系カバーボールの登場によって大きく変化しました。
また、少なくとも日本では景気悪化によるゴルファー人口の減少と、新規ゴルファーが生まれにくい環境となり、各社のモデル数は激減していきました。


売れるクラブを作り続ける必要性
ゴルファー減少の中、モデル数を絞りつつ、売り上げを確保していくということは、既存のゴルファーを大切に考え、課題に対応していくこととなります。
その結果、プロを含めた競技ゴルファー系の方々に特化したいわゆる上級者モデルがゆっくりとした進化していく流れと、一般ゴルファーのうち、ボリュームゾーンと呼ばれる方々のゴルフ熟練度と年齢の変化に合わせたモデルが開発されることとなります。
上級者モデルは、マッスルからハーフキャビティ・コンパクトキャビティの割合が変化していくだけにとどまり、強いショット時に低スピン化するボールに適応できなかったロングアイアンは少しずつ減っていきました。
一般モデルは、年齢と共に落ちる飛距離を補うことがなによりも大事で、熟練度はあがっていきましたから、慣性モーメントの大型化よりも、低・深重心化と、#7アイアンの飛距離性能をUPすることが、売れ行きを左右する大事なファクターとなりました。


性能表現の単純化がまねく収束感
さらに、失敗できない雰囲気から、クラブ選びにわかりやすさが求められ、性能をあらわすキーワードが独り歩きしていきます。最近の事例では、超大慣性モーメントドライバーがそうです。数年前のことですが、プロの使用者も激増して世界的にヒットしたドライバーがありました。そのクラブが他のクラブと違うところが、超大慣性モーメントだったことで、それ以降、他社もメディアも大慣性モーメント時代が来るぞとなりましたが、その売れたクラブの神髄は、大慣性モーメント化のデメリットを感じさせない、とてもバランスのとれた重心性能にあったのですが、「大慣性モーメントが良い」というキーワードが独り歩きしてしまい、各メーカーは大慣性モーメントを競うようになりました。しかし、結局のところ、ヒット作を超える性能のものはほとんどなく、ごく最近は、別の方向へシフトしています。
これと同じようなことが、カンブリア紀以降ミッドキャビティにもおこりました。ミッドキャビティの良いところは、タフなコースセッティングでも戦えるギリギリのサイズで、慣性モーメントが大きいこと。デメリットは、フェースコントロール性がルーズなことでした。開いて閉じる打ち方が主流だった当時は、そのデメリットがもっと影響していたと思います。そのデメリットを解消するために、名器たちは独特のヘッド形状をしていて、その中で大きくフォーカスされたのが、グースネックでした。そこから、グースネック=やさしい というキーワードが生まれてしまい、上級者が拒んだこともあり、グースネックは徐々に一般モデルのみとなり、とても良い性能だったミッドキャビティは少数派となって姿を消すこととなりました。


時代の変化に新しい波
姿を消したミッドキャビティですが、あらたな変化が起きたことにより、絶対に必要な性能となると考えています。その変化とは、大慣性モーメントドライバーを、ゴルフを始めた時から使っていた若いプロゴルファーの出現です。先に話したモデル開発の2極化した流れのうち、プロ上級者向けの性能は緩やかな変化と言いましたが、この変化のポイントは、激変するドライバーへの対応がメインで、弾道・フェース面を意図的にコントロールするアイアン型のスイング技術を変えないまま、大型ドライバーを打てるように設計することでした。そこに、大型ドライバーのメリットを効率よく生かすスイングをする選手が台頭することとなり、また急速に進化した弾道・インパクト測定機の出現も相まって、飛距離の出し方や、弾道コントロール方法も、新しい技術へと変わってきました。そうなると、今までのアイアンベースのスイングではなく、ドライバーベースのスイングと同様のスイングがしやすいアイアンが必然的に必要となってきます。それが、今回cHアイアンの性能としてフォーカスをしたミッドキャビティです。


フェースキープ性を高める新解釈
cHアイアンの開発でたどり着いたのは、ミッドキャビティの名器たちの特性をしっかりと解釈し、グースネックではないもう一つの共通点であるフェース形状でした。これらの独特なフェース形状の本質は、グースネックの効果と思われていた、フェース面をシャフト軸よりも後方に感じて、フェース面の向きをキープしたスイングをイメージしやすいことでした。ただ、そこにはまだまだ考察の余地があり、特に、ロフト角によって変化する構えた時の印象を、重心性能の最適化とあわせて、どのように調整していくかが、不完全だったのかもしれません。
今回私は、その点チャレンジしました。フェース形状の変化を重心性能としっかりと結びつけながら、グースではないネック形状で、FP値と輪郭をリニアに変化させていく手法。フェース形状を決めるさまざまなファクターを連動した数式化することで、フェースだけ見るとロングアイアンとショートアイアンでは別のシリーズに見えるような形状を採用しながら、構えた時の違和感はなく、むしろ共通の印象で、フェース面をキープしながら打てる新感覚なアイアンセットとして、完成させることができたと思います。


得意技の封印と解放
私のキャリアに話を戻すと、30年近くのクラブ設計の中で培ってきたのは、進化し二極化していくクラブの未来を考察し、ゴルファーに寄り添う道具を作ることでした。これまでは、プロの技術を最大限に引き出すウェッジや、ミスを補い楽に飛ばせるアイアンなど、いわば「道具がプレーヤーを助けてくれる性能」を追求し、それを自分の得意技としてきました。
しかし、今回のcHアイアンで挑んだのは、その流れとは全く異なる新しい性能です。「道具に助けてもらう」のではなく、「自分の力を最も気持ちよく発揮できる」クラブ。この新しい設計思想にゼロベースで挑むため、あえて自分のこれまでの得意技を一度封印しました。
そして、この新しいアプローチを証明するために、実は同時進行でもう一つの開発を進めていました。それは、私の得意技をフル活用し、高慣性モーメントや飛距離性能といった「アシスト機能」を高次元でバランスよく詰め込んだ、もう一つの理想形です。伝統的で美しいフェース形状の中に、緻密な優しさを融合させたこの対比的なモデルは、cHアイアンの思想を裏付ける存在でもあります。
このモデルの登場はもう少しだけ後になりますので、また改めてお話しさせてください。
次回からは、まずはこの新しい挑戦の第一弾である、cHアイアンの性能についてさらに深く掘り下げていきます。